発表のポイント
- マグネシウム(Mg)が移動しにくかった岩塩型構造を改良し、低温でもMgを挿入・脱離しやすいマグネシウム蓄電池に用いる酸化物の正極材料としての作動を実証しました。
- 原子が密に配置した岩塩型構造は、劣化した酸化物正極材料の「成れの果て」の構造として、Mgの移動が困難であると考えられていましたが、多種の金属元素を混合した組成を設計することで、Mgの移動を促す空間(カチオン空孔)を安定かつ大量に含む結晶構造を実現できます。
- 安価・安全・高容量を実現する次々世代蓄電池として、マグネシウム蓄電池の実現が期待されます。
概要
資源として豊富なマグネシウム(Mg)を用いるマグネシウム蓄電池(Rechargeable Magnesium Battery: RMB)は、安価で安全・高容量な次々世代蓄電池として期待されています。RMBの実現には、Mgを円滑に挿入・脱離できる正極材料が必要ですが、Mgは固体中を移動しにくいことが高性能な正極材料の開発を阻んでいました。例えば、これまでに提案されてきたスピネル型構造の正極材料では、Mgの移動を促進するために150 ℃まで加熱する必要がありました。またMgを挿入することで、スピネル型構造からMgの移動がより困難な岩塩型構造に変化し、実質的に利用可能な容量が目減りした結果、電極が劣化することが問題でした。
東北大学金属材料研究所の河口智也 助教と市坪哲 教授らは、Mg以外に6種類の金属元素を混合することで、Mgの移動を促す空間を安定かつ大量に含む岩塩型構造の新たな正極材料を開発しました。岩塩型構造はMgの挿入・脱離が困難とされていましたが、90 ℃とこれまでよりも低い温度で挿入・脱離が実現できることを実証しました。広範囲にわたり容易に入手可能なMgを用いた蓄電池が実現すれば、資源を巡る国際的競争の緩和など、持続可能な社会の実現への貢献が期待されます。
本成果は2024年3月15日10:00(英国時間)に、エネルギーに関する専門誌 Journal of Materials Chemistry Aにオンラインで公開されました。
詳細
- プレスリリース本文 [PDF: 790KB]
- Journal of Materials Chemistry A [DOI: 10.1039/D3TA07942B]
図1. マグネシウム蓄電池の概念図。リチウムイオン電池と同様に、Mgが正極と負極間を電解液を介して移動することで、蓄電池として作動する。従来型のリチウムイオン電池と大きく異なるのは、リチウムイオン電池では黒鉛が使用されていた負極材料に、容量が大きいマグネシウム金属を用いる点である。
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