発表のポイント
- 物質の各層の磁化が交互に反対向きになっている反強磁性体において、層の間に対称的にスピンを加えると、その向きが定まらない磁気フラストレーションが発生します。
- 分子の吸着・脱離によって層間距離を制御し、二種類の磁気相互作用のバランスを変えること(フラストレーションの開放)で、磁気状態(磁気相)を可逆的に切り替えることに世界で初めて成功しました。
- これらの結果は、化学的な刺激をきっかけに動作する分子デバイスにおいて、新たな作動メカニズムとして期待されます。
概要
わずかな外部刺激により複数の状態間の切り替えが出来る材料は、省エネルギーかつ高機能なスイッチ素子の実現に欠かせません。特に、『磁気フラストレーション』と呼ばれる、複数の磁気相互作用が競合しスピンの向きが定ならない特殊な状態は、次世代スイッチ材料として注目されています。しかし、このような状態を人工的に作り出すことは非常に困難で、これまで十分に研究されてきませんでした。
東北大学金属材料研究所の宮坂 等 教授と高坂 亘 准教授らの研究グループは、分子性多孔性材料からなる層状の反強磁性体に常磁性分子を挿入することで、磁気フラストレーション状態を意図的に設計・実現することに世界で初めて成功しました。さらに、層間に有機溶媒のミクロな分子を吸着・脱着させることで、複数の磁気相互作用のバランスを意図的に調整し、磁気状態を可逆的に切り替えることにも成功しました。
磁気フラストレーションを活用した磁気相変換は世界初であり、化学的刺激により駆動する新たな分子デバイスへの応用が期待されます。
本研究成果は、2025年7月26日付け(現地時間)で最先端科学に関するオープンアクセス誌Advanced Scienceに掲載されました。
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